ザルツブルクで映画「サウンド・オブ・ミュージック」60周年記念ガラを見てきた

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2025年10月23日(木)、ザルツブルクのフェルゼンライトシューレでミュージカル映画「サウンド・オブ・ミュージック」60周年記念ガラ公演が開催されました。縁あって、このガラ公演を拝見できたので、今回はそのレポートです。

当日は約2000人の観客が来場、ルーカス・ペルマンとパトリツィア・アンガーが「ドレミの歌」、「エーデルワイス」など、映画から生まれた名曲を披露。60年前に子役を務めた4人の役者や、実在のトラップ一家の子孫の方々も登場し、時を経ても愛される映画の力を感じるひと時でした。ザルツブルク市では2026年夏に「サウンド・オブ・ミュージック博物館」がオープンするほか、日本では公開から60年を記念したリマスター版の映画「サウンド・オブ・ミュージック」も公開されるので、ぜひこの機会にご覧になってみてください。

フェルゼンライトシューレのホワイエ。ザルツブルク音楽祭でないと入れないと思っていただけに、感動的でした。フェルゼンライトシューレは「岩壁をくりぬいた馬術学校」の意味

1960年代ミュージカル映画の金字塔「サウンド・オブ・ミュージック」

1950年代から60年代にかけてのハリウッドはミュージカル映画の黄金期。「パリのアメリカ人」(1951)、「雨に唄えば」(1952)、「ウエスト・サイド物語」(1961)、「マイ・フェア・レディ」(1964)など、たくさんの名作が生まれるなかで、1965年に公開されたこの「サウンド・オブ・ミュージック」は今なお世界第3位の興行収益(※)を誇る名作中の名作。
公開から60年を経て世代によって抱く印象が変わってはいるようですが、「ドレミの歌」「私のお気に入り」など、この映画から生まれた名曲を、そうとは知らずに耳にしている方々も多いのではないでしょうか。

映画は1965年の公開後世界的なヒットとなり、歴代興行収入は依然世界第3位を記録(※)。ミュージカルとしても世界各地で上演されているほか、ザルツブルクでは世界遺産に登録されているマリオネット劇場の演目としても人気を集めています。

“THE SOUND OF MUSIC”©1965 20th Century Studios, Inc. All rights reserved

※2022年、米国の調査会社によるインフレ調整後の歴代興行収入ランキングに基づく。

実在一家のトラップファミリー。ほぼほぼ実話の物語

映画「サウンド・オブ・ミュージック」は、かつてザルツブルクで暮らしていたゲオルク・フォン・トラップ大佐の妻マリアの自伝をもとにした、ほぼ実話の物語です。

実在のリアル・トラップ家の軌跡をたどって物語をざっくり説明すると、1926年、ザルツブルクのノンベルク修道院で修道女見習いをしていたマリア・クチェラが妻を亡くし、7人の子どもとともに残された傷心のゲオルグ・フォン・トラップ大佐の家に家庭教師として赴きます。マリアは当時21歳くらい。一番上の子が16歳(映画では一番上は長女だが、実際は長男)。子どもたちとほぼ年齢が変わらないマリアは、持ち前の破天荒で明るい性格で沈んだ一家と心を通わせ、大佐と結婚(大佐とは25歳の年の差)。

“THE SOUND OF MUSIC”©1965 20th Century Studios, Inc. All rights reserved

何の不自由もない一家だったが、世界恐慌で破産。しかし、もともと音楽好きの一族であったことから「トラップファミリー合唱団」として楽団を結成し収入を得るとともに一躍有名になるも、ナチス・ドイツへの協力を拒否しアメリカに亡命。アメリカでも音楽を糧に生計を立てながら、バーモント州のストウで農場を購入。ストウのホテル「トラップ・ファミリーロッジ」は当地の名所の一つとなっており、今もその子孫はストウをはじめ、世界各地で暮らしています。

この恐慌後の物語は、映画では「元大佐がナチス協力を拒否して亡命を決意」という、信念と正義と家族の絆のストーリーに集約されていますが、ここで何が言いたいかというと、トラップ一家の子孫はアメリカをはじめご存命だということです。

ザルツブルクと近郊に残るロケ地は観光名所。2026年には博物館も

映画の撮影はアメリカのスタジオのほか、ザルツブルクに残る一家ゆかりの地やザルツブルク市内、あるいは近郊で収録されました。今回の60周年ガラ公演の会場となったフェルゼンライトシューレは映画のクライマックスとなるコンサート会場として使われた場所で、ザルツブルクを代表する世界でも非常にプライオリティの高いクラシックイベント「ザルツブルク音楽祭」の会場にもなる、この町きっての権威ある建物の一つです。

このほか今は市役所になっているミラベル宮殿や宮殿内庭園の階段やバラのアーチ、祝祭劇場に通じる手前の「馬洗場」などは映画「ドレミの歌」の場面でロケが行われた名所。ノンベルク修道院もいまだ健在。クライマックスのスリリングなシーン、ザンクトペーター墓地、トラップ邸として使われたレオポルツクローン城、「もうすぐ17歳」の名曲が歌われたガラスのガゼボが移築されているヘルブルン宮殿等々……。

今は市庁舎になっているミラベル宮殿。 「ドレミの歌」はのロケ地として有名です ⒸTourismus Salzburg GmbH, Breitegger Gunter

ちなみにこのヘルブルン宮殿のガラスのガゼボのすぐ隣に、2026年夏、新たに「サウンド・オブ・ミュージック博物館」がオープンする予定。「建物自体が文化財なので外観は現状維持、内部を改変することもいろいろと制約がある」と関係者の方が言っておられましたが、内容的には映画の撮影に関する展示や、実在のトラップ家に関する展示になる予定、ということです。

絶賛普請中の「サウンド・オブ・ミュージック博物館」 ©TomoNishi/arT’vel
「サウンド・オブ・ミュージック」の中でも名場面の一つ、ガラスのガゼボ。「もうすぐ17歳」を歌いながら長女リーズルとボーイフレンドのロルフが歌い踊りました。もっとも踊りと歌はハリウッドのスタジオで撮影されたそうです ⒸTomoNishi/arT’vel
参考記事
「サウンド・オブ・ミュージック博物館」起工式に関する現地記事。

オーストリアのスターも登場したガラ・コンサート

さて、前置きが長くなりましたがガラ公演の様子を。

公演は満席となる2000人の観客が見守る中、ザルツブルク州立劇場芸術監督のカール・フィリップ・フォン・マルデゲム氏と、1965年の映画でトラップ家の長男フリードリヒを演じたニコラス・ハモンド氏の司会で行われました。先にも少しお話したように、ザルツブルク州立劇場で行われる「ザルツブルク音楽祭」はこの町を代表する世界屈指のクラシックイベントの一つで、世界的にもチケット入手困難で知られる音楽祭の一つです。当然ながら出演者も世界トップクラスというクオリティの高さで知られるわけですが、そうした劇場の芸術監督が司会として登場してくるということがまず、驚きです。

舞台は潜水艦を模したセットで、これはオーストリアの海軍将校であったゲオルグ・フォン・トラップ氏に敬意を表したのでしょうか。トラップ氏が現役の軍人だったとき、オーストリアにはまだ海がありました(この話についてはまた別記事で。トラップ氏とオーストリアの歴史もまた、辿ってみると深いものがあります)。

ガラ公演はオーストリアのミュージカルスター、ルーカス・ペルマンとパトリツィア・アンガーがトラップ大佐とマリアを演じました。

まずテーマ曲とともにマリア役のパトリツィアが登場し澄んだ声でテーマ曲を熱唱。
そして潜水艦の蓋(?)が開くとそこはフォン・トラップ一家のリビング。
ルーカス大佐(笑)の笛とともに7人の子どもが登場して軍隊式の自己紹介をする例のシーンとともに、マリアが大佐に「あなたを呼ぶときの笛の合図は?」と聞き返すシーンが再現されます。
これ、今見てもなおさら痛快に感じるシーンですね。

そしてマリアが子どもたちとともに「ドレミの歌」を歌い、さらにオーストリア版ミュージカルに出演した子役らも交えて「もうすぐ17歳」、「私のお気に入り」、「すべての山に登れ」など、名曲を次々と歌われます。歌はオーストリアのミュージカル版をベースにしているため、歌われる言語はドイツ語の「サウンド・オブ・ミュージック」。これはこれでとても新鮮です。ルーカス大佐がギターを弾いて歌う「エーデルワイス」もまた、ほろっとくるものがありました。

個人的にはシスターたちが歌う「すべての山に登れ」がとても好きなのですが、ガラ公演ではシスターたちが潜水艦の一番高いところに並び歌います。その姿を、これから旅立とうとしているのでしょうか、大佐とマリア、7人の子どもたちがじっと見上げて静かに耳を傾けている姿が印象的でした。

また、サプライズイベントとして2010年から15年にわたり、ミュージカルに出演した子どもたち約80人が舞台を埋め尽くし、再び「ドレミの歌」を大合唱するというプログラムも組まれ、会場は和やかな雰囲気に包まれました。「ドレミの歌」はかわいいですね、やっぱり。余談ですが、ペギー葉山さんの日本語訳の歌詞はとてもよくできていると思います。

15年分の子役が舞台を埋め尽くして「ドレミ」の大合唱。とてつもなく和んだ瞬間でした ⒸTomoNishi/arT’vel

後半は1965年の映画で次男、三女、四女、五女を演じた往年の役者たちや、現在アメリカで暮らすトラップ大佐の2人の孫娘と2人の曾孫たちが登壇。あれから60年、7人の子どもたちのうち、5人がお元気です。リアル・ファミリー代表の孫娘の一人、クリスティーナ・フォン・トラップ氏は「皆それぞれ違う場所に住み、違う言語で歌っているが、『トラップファミリー』という一つの傘の下にいる」と挨拶。司会のハモンド氏も「親が子に、孫にこの映画を見せ、それが続いていることに感謝している」と語りました。

フィナーレは会場と客席が一体となって「エーデルワイス」を合唱し、記念すべきひと時を締めくくりました。ちなみに合唱版のエーデルワイスは英語。潜水艦のボディに歌詞が映し出される仕様でした。

元オーストリア政府観光局広報にして、現在ザルツブルク市観光局で日本代表をされているモラス氏にお話を伺ったところ、「サウンド・オブ・ミュージック」の映画はアメリカ人や日本人はじめアジア人には人気だけれど、オーストリアの人たちは全然知らず、興味もなかったのだそうです。ナチス時代の大変なときに亡命したオーストリア人は、場合によっては裏切り者扱いされていたということもあったようで、トラップ一家のオーストリア、またはザルツブルクにおける立ち位置もかなりデリケートで微妙だったのだとか(この辺のことは「マリア・フォン・トラップ」の伝記などの書籍にも見られます)。

でも今回こうした盛大なガラ公演を見ていると、時代とともにオーストリアにおける「サウンド・オブ・ミュージック」の立ち位置も変わってきているのだなと感じましたし、実際に現地の報道でもそのような記載がやはり見受けられました。

<左から右へ> エリザベト・フォン・トラップ(マリアの孫)、デュエイン・チェイス(クルト役)デビー・ターナー(マルタ役)、ニコラス・ハモンド(フリードリッヒ役)、キム・カラス(グレーテル役)、アンジェラ・カートライト(ブリギッテ役)、ステラ・フォン・トラップ(マリアの曾孫)、クリスティーナ・フォン・トラップ(マリアの孫)、アニー・フォン・トラップ(マリアの曾孫) © SalzburgerLand Tourismus

限定2週間の映画公開。「4Kリマスター版」映画でザルツブルクへ

というわけで。

4Kリマスター版「サウンド・オブ・ミュージック」は2025年11月21日から12月4日まで、限定2週間公開です。

この映画、先にも書いたようにザルツブルクの名所のプロモーションフィルム。オーストリアのアルプスの山並みやトラップ邸の湖など、本当に画像がきれいです。

それがリマスター版でさらにキレイな画像で見られるのは本当に楽しみです。

せっかくですからきれいな映像で見たいもの。

そしてザルツブルクに足を運んでみてください。「サウンド・オブ・ミュージック」だけでなくモーツァルトの生地、モーツァルトの町としても有名ですし、クリスマスの季節は華やかなライトに彩られるクリスマスマーケットでもにぎわいます。

4Kリマスター版 映画「サウンド・オブ・ミュージック」


【上映劇場】
北海道)TOHOシネマズすすきの
東京)TOHOシネマズ日比谷/109シネマズ二子玉川
茨城)イオンシネマ守谷
石川)イオンシネマ金沢
愛知)イオンシネマ名古屋茶屋/イオンシネマ常滑
大阪)大阪ステーションシティシネマ/109シネマズ箕面
福岡)イオンシネマ福岡
宮崎)宮崎キネマ館

11月27日(木)より
鹿児島)ガーデンズシネマ
11月28日(金)より
東京)109シネマズ プレミアム新宿
神奈川)109シネマズ港北

11/21(金)よりTOHOシネマズ日比谷ほか公開
Ⓒ2025 20th Century Studios.
“THE SOUND OF MUSIC”c1965 20th Century Studios, Inc. All rights reserved

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